サーファー本を二冊。「南海楽園―タヒチ、バリ、モルジブ…サーフィン一人旅」「サーファー・真木蔵人」を真冬に読んでみた。
面白かったのは、二冊ともプロのサーファーではなくて、他の仕事を持ちながら、いかにサーフィンと関わってきたかっていう内容なんですね。もちろん、武田圭さんも真木蔵人さんも、サーフィンはプロ級の腕なんだけど。
「南海楽園」は20年以上、仕事の合間の休みで40カ国以上をまわったサーフトリップ人生。「サーファー真木蔵人」は、俳優をドロップアウトして渡ったアメリカで、どうサーフィンと向き合って、世界選手権5位という結果を築き上げ、そして俳優業とサーフィンを両立させていったか。
ある意味メチャクチャ分かりやすくて、サーフトリップに行って波が無いとガッカリだし、天気がよければ気分も良くなるし、波がでかくなってくると「自分が通用するのか?」不安になりつつ、いいライドができると、それだけで最高の気分ですごせる。
大自然の力の前で、本当に心から楽しもうと思ったら、シンプルに自分の持っている力を最大限に引き出すことを追求しなければいけない。ヘビーだけれども、それを乗り越えた先にある一体感。
本の中では、真木蔵人の父、マイク・真木さんのインタビューも結構でてくるのだけれども、これがまた、とてつもなく渋くていいんですね。
そういう親に育てられたのがオレたちの世代。
オレたちの世代は、目標がないっていうか、はっきりした指針がなくて、結局西を向いちゃう。音楽、ファッション、車…、何でも西のものを取り入れるのがトレンディだった。
そんな西ばっかり向いている親に育てられたのが蔵人の世代なんだよ。
で、彼らは『オヤジたちは何で西洋にばっかり目を向けてきたの?日本にだっていい文化や歴史があるじゃないか』と考える。
それはいいことだと思いますよ。
生活の方法や形態は、これからますますミックスされてくと思うけど、そこで必要なのは、精神的なよりどころだよね。
日本人としての誇り、プライド、尊厳。日本人の魂は何かってこと。
蔵人がそういうことを考えるようになってくれて良かったと思うよ。たぶん、アメリカから日本を見たからこそ考えるようになったんじゃないかな。
外から中を見るってことは、実はとても大切なことなんだよ。
サーファーは海から陸を見てるだろ。そういう感覚ってすごく大事だと思うよ」(p.195)
「波乗りは、メニースタイルですから」
蔵人は、よくこの言葉を口にする。
たしかにサーファーには、どこか共通するメンタリティがある。だが、サーファーという言葉だけでひとくくりにして、サーファー像を作り上げることができるほど単純なものではない。
太っている人も、やせている人もいて、にぎやかな人も、物静かな人もいる。穏やかな人も、気が荒い人も、ていねいな人も、ぶっきらぼうな人も…。
サーフィンから感じることを自分のなかにどう取り入れて、どう消化するかは人それぞれ。
それがその人なりのスタイル。自分のスタイルが確立されれば、どんな状況におかれても、恐いものはない。(p.192)
サーファー・真木蔵人 | |
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南海楽園―タヒチ、バリ、モルジブ…サーフィン一人旅 | |
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2005年1 月 8日 (土) カテゴリー: book | 個別ページ | コメント (2) | トラックバック (0)
日本人ではじめて、MAUIのJAWS、世界最大の波に乗った中里さんの著作「水人」。読みつつ驚いたのは、サーフィンをしていて感じる、非常に曖昧な、しかし確固として身体が覚えている感覚が、正確に言葉で書かれているということ。あと、ブルース・リーのドキュメンタリーかなにかを見ていて、ずっと心に残っていたんだけど、正確に思い出せなかったブルース・リー語録がドンピシャリ、本の中で引用されていて、これも大きな収穫でした(笑)。
失敗の原因は自分で自分を縛ることだ。
「こうであるべきだ、こうでなければならない」とか「こんなことができるはずない」などと自分自身を縛ることで自由な動きができなくなる。
Empty your mind, be formless, shapeless like water. Be water my friend.
これは、わが心の師、ブルース・リーが、あるテレビ番組のインタビューで吐いた言葉だ。
心を空っぽにするんだ、形式にとらわれず、水のように形をもたない。友よ、水になるんだ。
自信はないが、だいたいこんな訳でいいと思う。最初にこの言葉を聞いたとき、それはまさに「水のように」僕の心にしみ込んでいった。だから僕はいつも、自分がふだんの自分でなくなりそうになるとき、”水”をイメージする。
カップを役立てようと思ったら、まずカップの中が空でなくてはならない。心も同じことだ。一定の形式は自由を妨げ、創造性を押しつぶす。だから固執してはならない。水のようになれば、「一定の形式、スタイル、システム、型」にとらわれることなく、自由な想像や表現が可能になる。あらゆる「形」に固執しないことで、あらゆる状況に順応した「形」を自然に創造することができるのだ。水はカップにそそげばその容れものの形になり、ティーポットにそそげばティーポットの形になる。水は流れたり、忍び寄ったり、したたり落ちたり、砕けたり、時に大雨、洪水、津波・・・どんな形にもなれる柔軟性を持ち合わせている。固定観念にとらわれると人の言うことを素直に聞き入れなくなる。それはすなわち海の心に触れることができないということに他ならない。
ジョーズはその「水のようにあろうとする心」が試される最高のステージだ。
ジョーズライドで、まず大切なことは恐怖心を克服することだ。
ワイプアウトして波に巻かれたらどうしよう。息が続かなかったらどうしよう・・・。考えだしたらきりがない。恐怖心は身体から自由な動きを奪う。
肝心なのは、やるべきことをすべてやって、あとは自分を信じること。自分を信じると口でいうのは簡単だけれど、本当に信じきれるかどうか・・・。それにはふだんの努力がかかってくる。やるべきことをすべてやったら、あとはもう、とにかく信じるしかない。100パーセントの安全などありえないのだ。人生も同じことがいえるような気がする。
人間の限界を超えた波に挑戦するためには、人の持てる能力を最大限に発揮することが求められるのだろうけど、その過程は、ある意味で「無駄な思考を削ぎ落としていく」、感覚だけの世界に突入していくことなのでしょうか。究極のステージであるJAWSに挑戦するために、究極の代償(命)をかける中里さんの言葉は、純度100%、混じりけのない蒸留水のようなものだけど、多分サーフィンに心を奪われた人は、誰しもがそんな100%の感覚を体験して、それを追い求めるようになるんじゃないかと思う。
サーフィンの記憶は、完璧なスチールショット写真のように、ある瞬間、最高の構図で波の上の景色を見るようなもので、台風の波の切り立った斜面をフリーフォールする時とか、夕暮れ時に赤く輝く海の上で、ショルダーのはった波の斜面の先に、夕日へとつながる光の道がオーバーラップするときとか、そんな時の感覚は、次のような中里さんの言葉が完璧にフィットするような気がします。
完璧な技が決まった瞬間、僕はそこに真の自由を感じる。時間でいえば、ほんのコンマ何秒かにすぎないが、僕はその一瞬に永遠を見る。
心と身体、そして自然が一体となり、何も考えなくても手足が勝手に動いていく。別の言い方をすれば自分の身体が誰かに支配されているような感じ。「こっちに来い」とか、「そっちはダメだ」といった声が聞こえ、波が僕のために道を開けてくれる。そんなときは、このまま、目をつむっていてもできるような気さえしてくる。
ライディングを終えて、あとになって考えるとそのライディングが実は自分でしたものではないのではないかと思うことがある。それが自然と一体化したということなのかもしれない。本当に不思議に思うと同時に、心に自然に対する畏敬の念があふれてくる。ウインドサーフィンをしていてよかったとしみじみ感じる瞬間がそこにある。
人間の身体は、ほとんどが水分でできている、っという言い方もされるけど、むしろ人の形をした水というほうが正確だったりして。人形と人の違いは、水で満たされているか、いないか。あと、やっぱりみんな、ブルース・リーが好きなんですね(笑)。
浅野 「水人」っていうこの本のタイトルなんだけど、これってヒサオちゃんが自分で考えたの?
中野 「Be like water(水のように)」っていうブルース・リーの言葉と「Water man」という言葉にインスパイアされて・・・。水ってあらゆる生命の源だからね。水はどんなものでも溶かしてその中に受け入れることができるんだけど、水の性質は失わない。泥水でもなんでもどんなに汚れても、蒸発して雲になって雨に変われば、また純粋な水に戻るでしょ。津波にも洪水にも、霧の一滴にもなることができる。ブルース・リーがいったみたいに、水のようにしなやかで、静かで落ち着いてて、集中が必要なときは津波みたいに力を出して、そうでないときは水面のように落ち着いて・・・。そういうふうになりたいという意味を込めて、このタイトルがいいかなと。
ーー 浅野さんもブルース・リー好きなんですか?
浅野 もちろんです。もう、僕はブルース・リーと誕生日が同じというのがいちばんの自慢ですから(笑)。
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2004年10 月30日 (土) カテゴリー: book | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (1)
レストラン紹介のページでは、鎌倉~茅ヶ崎まで訪れたレストランやお店の紹介をしていますが、湘南地域には本当に沢山のいいレストランがあるんです。通りすがりに気になって入る場合も多いのですが、さすがに逗子の方など、すべての道を通るわけではないので、地元でもガイドブックは頼りになります。
134号とか、大きな通りから少し入った住宅地に、いい雰囲気のお店があることも多いんですよね~。この本は雑誌「湘南スタイル」で有名なエイ出版社の別冊ムックで、きれいな写真で、湘南の名店を紹介されています。エイ出版は、「湘南スタイル」などの雑誌で地元にもしっかり食い込んでいるので、こちらで紹介される店は、どこでも満足できること間違いなし。湘南地域にドライブすることが多い人は、車に常備!ですね。
湘南スタイル・レストラン100―ロコ御用達のレストラン100店
湘南スタイルカフェ&バー100―気持ちのいいカフェ&バーを100店 by G-Tools |
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2004年10 月23日 (土) カテゴリー: book | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
ザ・ワールド・ストームライダー・ガイド 日本語版〈Vol.1〉 | |
おすすめ平均 世界版ビーチコーミング 日本はあったかかった・・・ 最高の一冊です Amazonで詳しく見る by G-Tools |
先週の台風16号で、火曜~日曜までサーフィンを十分に堪能したと思いきや台風18号が発生。中心気圧 935 hPaと、こちらも今週末にかけて期待させてくれます。サーフィン・シーズンまっさかりに、おすすめの一冊。最近買ったサーフィン関連の本のなかでも、群を抜いて素晴らしい本です。
全世界80地域のサーフィンスポットを、全ページ・フルカラーで紹介。サーフスポットの写真、地図はもとより、月ごとの気候・水温、スウェルのサイズ・向き、風向き、フェイスが整う確率まで詳細に網羅。読んでるだけで、サーフトリップをしているような密度の濃さ。
個人的に楽しかったのは、なかなか他に情報の無いヨーロッパ・アフリカのサーフスポットについて。地中海はイタリアのサルディニア島で、いい波にありつけるとは知らなかった。飯も旨いんだろうし、文化的にも相当面白いと聞くので、サーフボード片手にぜひいつか行ってみたいな~
他にもアイルランド、モロッコ、イスラエル、ガラパゴスと、およそサーフィンができるとは思いもよらない国々のサーフィン情報が目白押し。サーファーのためのワールド・アトラス、といったところ。全三巻で世界中240箇所を網羅するらしいので、早くVol.2、3も翻訳出版されてほしいなあ。とにかくサーファーなら絶対おすすめです!
2004年9 月 2日 (木) カテゴリー: book | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
bulknews & bulkfeedのMiyagawaさん、NDO:Weblog & procfeedのNaoyaさんの共著、Blog Hacksが予約好調のようですね! G-Toolsも紹介してもらって、O'Reilly本に載れるとはラッキ~であります。サポートBlogも始まっています。O'Reillyの紹介ページ。
技術本は、思わず色々と買ってしまうのですが(というか買いすぎ)、O'Reillyの本はキーボードの横に鎮座&読み返す頻度が、やっぱり一番高いです。最近買ったSpidering hacksとMySQLクックブックもかなりいいです。
Sipdering Hacksは、こんなテクニックもあるのか~と遊び感覚、だけど内容濃し。MySQLクックブックは、SQL文の基本の加えて、数多くの実装テクニックのすべてがJava, Perl, PHP, Pythonの4つの言語のサンプルコードで記載されていて、手を動かしながら、しかも自分の好きな言語でMySQLをマスターできます。クックブックVol.2は、WEBサイトでのMySQLの利用をより具体的に学べます。
確かにGoogleで検索すれば、ネット技術系の情報はほとんど見つけることができるのだけど、検索の手間の解消と、どの方法がベストプラクティスなのか?を体系的に知ることができるという意味で、O'Reilly本は不滅です!
Blog Hacks-プロが使うテクニック & ツール 100選 宮川 達彦 , 伊藤 直也 発売日 2004/08/07 売り上げランキング 50 Amazonで詳しく見る |
Spidering hacks―ウェブ情報ラクラク取得テクニック101選 Kevin Hemenway, Tara Calishain, 村上 雅章 おすすめ平均 ただの翻訳ではないすばらしい内容 掲載されたHackには、ユニークで興味深いものが多いです。 検索ロボットを作りたい人へ Amazonで詳しく見る |
MySQLクックブック〈VOLUME1〉 発売日 2003/11 売り上げランキング 18,131 Amazonで詳しく見る |
本書は、世界で最も人気が高いオープンソースのデータベースシステム「MySQL」の解説書です(全2巻)。MySQLの特長である「処理の高速性」は、Webサイトのバックエンドとして使用することで、最大の効果を発揮します。VOLUME 2では「Web環境でMySQLを使用するためのPerl、PHP、Python、およびJSP(JavaServer Pages)のスクリプトを記述する方法」「クエリ結果から様々なHTMLを出力する方法」「Webからのユーザの入力を処理する方法」「MySQLを使ってWebセッション管理を行う方法」を解説します。他に「トランザクションの実行」「シーケンスの生成と使用」「複数テーブルの使用」「統計手法」「重複の処理」なども解説。MySQLを知り尽くした著者が持てる知識を惜しみなくつぎ込んだ本書は、すべてのMySQLユーザ必携の書となることでしょう。
(オライリー・ジャパンより)
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2004年8 月 1日 (日) カテゴリー: book | 個別ページ | コメント (8) | トラックバック (0)
カナダの燃料電池ベンチャー、バラード・パワーシステムズという名前は、ニュースなどで耳にしたことがあるのではないでしょうか?最近ではトヨタやホンダが水素燃料電池エンジンの自社開発に成功して、一時の独占状態から多様な競争環境になってきましたが、それでもインテル・インサイドに例えてバラード・インサイドという言葉があるほど、次世代エネルギー革命といえばバラード・パワーシステムズの名前が第一にでてきます。
そのバラード・パワーシステムズのサクセスストーリーは、メキシコ国境まで0.5キロの南アリゾナの田舎町、カルト教団がコミューンへの来訪者宿泊施設に使っていた、悪臭の漂うモーテルを2000ドルという格安で手に入れるところからはじまります。ジェフリー・バラード、キース・プレイター、ポール・ハワードという3人のバラードパートナーズが、ゼロから築き上げるのは、単なるベンチャー企業というだけでなく、21世紀の新しいエネルギーシステム、そしてその技術が実現する新しい社会の価値観でもあるといえます。
トム・コペル著の「燃料電池で世界を変える」は、バラード社創業者たちへの綿密なインタビューからなり、同社の発展の過程をつぶさに知ることができるだけでなく、「新しい価値観から、どのようにビジネスをつくりだすか?」「可能性のある、筋のいい技術とはどういうものか?」「ベンチャー企業として、どのように資金調達をするか?」「いかにして自動車メーカーという、超巨大企業と渡り合うか?」そして、すべての根底に流れる「常識や、一般通念を超えた、新しいテクノロジーへ挑戦する」とはどういうことかを垣間みることができます。
次世代エネルギーやベンチャービジネスに興味があればなおのこと、そうでなくても、ジェフリー・バラード氏が自分のビジョンを実現していく過程はドラマチックで共感を呼ぶます。
「私ははっきりと見通すことができた。省エネを中心とする仕事をしていたからね。だからそのやり方が誤っているのはすぐにわかった。私が関心を寄せたのはエネルギー転換装置であり、そのための技術だった。」(P-18)
このジェフリー・バラード氏のビジョンは、ビクトリア大学デビット・サンボーン・スコット教授の提唱する「エネルギー通貨」という造語でより詳しく説明されています。
スコットは、エネルギー源とエネルギー通貨の違いに念を押す。「ガソリン、暖房用燃料、天然ガスなどはエネルギー源です。」彼は1980年に『ウィニペグ・フリー・プレス』に語っている。「地下から掘り出すことができるからです。そしてこれらは同時にエネルギー通貨でもあります。車や家の中に持ち込めますから。原子力、潮力、太陽、風力などもエネルギー源です。しかしこれらはエネルギー通貨ではありません。車に風車をつけたり、原子炉を家庭に備えたりすることはできないからです。こうしたエネルギー源は、エネルギー通貨である電気に転換されるのです。」
電気は送電網によって家庭に送られ、熱や光や冷却に使われる。ここまでは結構だが、万能ではない。「電気をガソリンや暖房用エネルギーに代わる通貨として使うには問題があります。それは貯蔵が難しく、応用性が限られていることです。電気ではジェット機は飛ばせません。しかし電気を別の通貨にすることはできます。水素です。これなら貯蔵できるし、今日すでに使われているエネルギー通貨のように、どこででも使えます。」水素はパイプラインで供給することさえできる。スコットはきっぱりと結論している。「水素は炭化水素燃料の唯一の代替エネルギーなのです」。(P-64)
ここまでは将来的なビジョンに基づいたアイデアのレベル。しかしそのアイデアを、ジェフリー・バラード氏が自分の信じる将来として、バラード・パートナーズに語りかけ、少数ながらもチームのエンジニアが昼夜を問わず、もとは安モーテルだった研究所で開発をすすめることで、次々と技術的なブレークスルーを実現していきます。
書籍では、最終的に大成功をおさめたPEM型燃料電池以外の技術開発についても記されていて、同じチームが同様の労力をかけて取り組んでも、ある技術は失敗が失敗をよぶ、負の連鎖に陥ってしまうと振り返っています。そうではなく、改良すればするほど、よりシンプルで見通しがよくなっていく、”筋がいい技術”に取り組むことの重要性が、非常に具体的に述べられています。
(中略)
「あのチームはたった一年で、アイデアから現物を仕上げてしまった」とバラードはいう。その理由の一端は、PEM型燃料電池自体にあった。「あれはすごく寛容な技術なんだ。手を入れるたびに、どんどん改良できた。そしてシステムは複雑化するどころか、逆にシンプルになっていった。これも筋のいい技術の一つの目安なんだよ」。充電式リチウム電池のときとは大違いだった。あの時は、常に次なる障害が現れ、手を入れるたびに複雑になっていった。「商業化できる技術というのは、手がけるほどに見通しが利くようになり、シンプルになっていくものさ」。成功が成功を呼ぶ、というわけである。「そしてそれを目のあたりにするのは、すごくわくわくするんだ」(P-100)
筋のいい技術に巡り会うことは、新しい技術を商業化する可能性を一気に高めるだけでなく、開発のモチベーションをも高めるというのは確かに想像ができます。こうなると開発者としては、まさにポジティブ・スパイラルに突入するわけで、急速に進化をとげる技術に自信を深めながら、一方で世の中にだすタイミングを計ることになる。そして、チャンスを見極める嗅覚に関しても、ジェフリー・バラードという人は非凡な才能があることがよく読み取れます。
可能性のある技術に、優秀な開発陣。成功が目に見えてきた時点から、しかしベンチャー企業としての試練がはじまる。シリコンバレーのベンチャー企業のCEO交代、ニュースとしては耳にしますが、その内実として、どのような理由があるのか?なかなか目にすることがない、ベンチャー企業の資金調達と、それに伴う経営権をめぐる人間ドラマの側面も、綿密に綴られていきます。
(中略)
ブラウンはこう語っている。「創立者が会社を正真正銘の成功まで育て上げるのは非常にまれです。それだけに創立者たちがポストを譲ってほかの仕事に専念することは、別にめずらしくありません」。マイクはさらに、たいていの場合、創立者の能力や経験には、欠点があるという。「それは、今後取引しなければならない真の大企業に対して、自社をどう位置づけていくかという根本的な理解です」。
(中略)
ブラウンは相手が気分を害しているのをすぐに察した。「当然のことです。私はいつも起業家たちを相手にしています。それが私の生業です。そしてこうした提案に腹を立てないような起業家は、そもそも最初から支援に値しないのです」(P-136)
出資者を納得させるだけの経営的バックグランドと、自社のマーケット・ポジショニングに関する明確な戦略。ブラウン氏が、資金調達にあたって求める二つのポイントは明確です。ベンチャー企業の創業者が、それらの要求を満たすことが難しいのを知る一方で、同時に創業者には、自らの事業にたいする思い入れと執着心を求める。この相反する価値観のバランスをとりながら、ベンチャー企業を公開企業へと導いていく。”キャピタリスト”という職業の役割が、展開する人間ドラマのなかで具体的に描かれています。
結局、バラードパートナー達は外部からプロフェッショナルな経営者を迎え入れることを選択し、より大きな市場、自動車産業という巨大企業がひしめくマーケットに本格的に参入することになります。「真の大企業に対して、自社をどう位置づけていくか」というブラウン氏が提示した設問に対して、バラード社の経営陣がとった企業戦略は以下のようなものでした。
(中略)
リースにしたのは、技術力を示したり、切迫していた現金収入を得たりするためだけではなかった。経営陣はより微妙なメリットも狙っていた。「(リース電池の)実用試験の成功を聞く必要はありませんでした。品質には自信がありましたから」。バラード・パワーは商談に際して電池の備え付けや操作、モニター方法などを指導する顧客サービス技術者を派遣した。ラスールは朗らかに語る。「彼らの実態は営業マンでした。企業の懐の奥深く潜入して、先方の技術者や研究者たちと知り合うのが目的でした」。派遣先でかれらは燃料電池の使い道や、改良の余地について話した。「そのおかげで、当社は貴重な情報を得ることができました。他社が何を考え、何をやっているのかが、手に取るようにわかったのです」。こうして後にバラード社幹部が彼らのうちの数社を相手に、より戦略的なパートナーシップ交渉に望んだときには、「相手の狙いは、正確にわかっていました。そして彼らのビジョンに即した議論ができたのです。詳細はお話しできませんが、こうした無形の効用がありました」
(P-186)
そしてその結果は、インテル・インサイドになぞらえて、バラード・インサイドと呼ばれるような、次世代の燃料電池産業における重要なポジショニングを獲得することに成功したのです。最近では、その重要性に気づいた日本メーカーが、積極的に独自の燃料電池スタックの開発を成功させていて、一時のような独占状態ではなくなっています。しかしながら自動車産業、電力産業という巨大資本がせめぎあうマーケットにおいて、わずか数人からはじまったカナダのベンチャー企業が、ここまで重要なポジショニングを獲得できたことは、IT産業など全く新しくマーケットを作り上げるのとはまた別の意味で、大きな成功とされているのでしょう。
ベンチャー企業の技術開発と、資金調達、大企業にたいするポジショニングなど、本書は面白い要素がたくさんあるのですが、そういった個々の要素が、関係者への綿密なインタビューによって構成されていて、非常に具体的、かつドラマ性が高くて楽しめる本でした。そして本書はバラード氏の次のような言葉で締めくくられています。
燃料電池で世界を変える-燃料電池メーカーのトップランナーバラード・パワー・ システムズのたたかい トム コペル , 酒井 泰介 おすすめ平均 エンジニア以外の人にもオススメ 20015年車は変わる!? Amazonで詳しく見る |
2004年7 月10日 (土) カテゴリー: book | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (1)
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