ブログとプロモーションの関係について、ここ何回かまとめてみました。情報やサービスに消費者を”引きつけようとする”のが既存のマーケティングだとすると、ブログでの「おすすめのつながり」はユーザーにとっての”選択肢を増やす”マーケティングのようにも感じます。
この二つのマーケティングの違いについて、「自分達にとって一番不利なことを考えろ」というインタビューの中で、松井証券の松井社長が「"天動説"と"地動説"ぐらい違う」とおっしゃっていて、この言葉は非常に確信をついているなと思いました。
自分達にとって一番不利なことを考えろ(プレジデントビジョン)
松井証券株式会社
代表取締役社長 松井 道夫 氏
「この指とまれ」というお話をお伺いした際に、ハッと気付きを得たのですが、そのお話をもう一度詳しくお伺いできますでしょうか?
よく天動説から地動説へと言っています。天動説と言うのは、自分達が宇宙の中心にあって、お客さんは自分達の周りに存在する星なんだという考え方です。だから自分達を大きくしてどんどん重力を高めてお客さんを囲い込み、いろんな関係会社をつくってグループをつくろうとします。そうして巨大になればお客さまを囲い込めるんじゃないかというわけです。これを天動説といいます。
ところが先ほど言いましたように、個が情報を持つ時代になったら、お客さま一人一人が囲い込まれようと思いますか。お客さま一人一人が、全部自分を中心とした宇宙を持っているんです。何百万、何千万、何億という宇宙が一人一人のお客さまの中心に存在するんです。我々商人というのは、それぞれの宇宙に星として選ばれるかどうかの存在に過ぎないんです。
その時にどういう事をしなくちゃいけないかというと「この指止まれ」しかないんです。「この指止まれ、自分がやろうとしていることはこういうなんです」と宣言する。「こういう価格でこういうサービスをする、こういう製品を作るんだ」と。「これが良いと思うんだったら、お客さま、どうかこの指を掴んで下さい」と。商売とはこういう行為なんですよね。
一人一人のお客さまの前には指が無数に立っているんです。どの指に止まろうかな、掴もうかなというのはお客さまの勝手です。お客さまは自分にとってのナンバーワンの指を掴むんです。それは業界のナンバーワンでもなんでもないんです。それを勘違いするなよと。お客さまは掴んだ指を未来永劫離さないなんてことはないんです。気に食わなかったらすぐそれを手離して他の指を掴むというのが当たり前なんです。
当たり前、と松井社長は断言されていますが、気付かなければ天動説こそが当たり前だと思っていたのは、歴史が示すとおり。
そして「お客さま一人一人が、全部自分を中心とした宇宙を持っている」という時の、”自分の宇宙”がブログと言うかたちで目に見えてきているのかもしれません。
ブログでの盛り上がりから「月刊!木村剛」を創刊されるなど、ブログとマスメディアを旨くミックスして展開している木村剛さんのブログでも、こんな表現がありました。多分、ブログを続けていくと、多かれ少なかれこのような感覚を体験できるような気がします。
[週刊!岡本編集長] ナレッジはいかにして蓄積されるか
まさに「ナレッジとは蓄積されるもの」だと実感できる。続ければ続けるほど、新規の資源が獲得され、経験度数が上がり、その情報がミーティングやITによる情報共有で個人の知識に落とし込まれ、そこで再生産されたナレッジが誌面に反映されて、雑誌のクオリティが向上するという循環である。
一方で企業として、天動説と地動説のどちらの理論に基づくかによって、随分と価値創造にたいするアプローチも違ってきているような気もします。何をもってして価値とするかについて、FPNで徳力さんが以下のようにかかれていました。
スカイプは電話市場を消滅させる?(FPN)
そんな中ではっとさせられたのがスカイプの経営方針です。
これまで一般的な通信事業者は全てARPU(Average Revenue Per User)とよばれる顧客一人あたりの収入を指標にしていました。例えば携帯電話なら一般の人が支払うお金の平均が月6000円なのか1万円なのか。つまり、できるだけ全ての人から、少しずつでも多くお金を取るというのが指標だったわけです。
これに対し、スカイプはARPE(Average Revenue Per Employee)を指標とする、とはっきり宣言していました。利用者が何人いるかは全く関係なく、社員一人がいくら稼ぐかを指標としているわけです。
ここで指摘されているARPUとARPEの違いも、まさに天動説と地動説の違いなのかもしれません。「個々のユーザーが、どれだけ企業にお金を落としてくれるか?」と「企業内の個人が、どれだけユーザーに価値を提供できるか?」は、まったく同じ事業を展開していても、価値創造に対するアプローチが180度異なると言ってもいいのではないでしょうか。
最近、抵抗勢力という言葉がよく使われますが、抵抗勢力にも正しい理屈があるから”勢力”となりうるのだと思います。ただし、その理屈が天動説という時代遅れの理論に基づいていると、地動説の世界と大きなギャップが生まれてしまうのかも。
Skypeは戦争を巻き起こすか(佐々木俊尚の「ITジャーナル」)
コンテンツ配信をめぐる、テレビ局とインターネット業界の暗闘もそうだ。何とか現状の枠組みを守り、自由なネット配信を妨げようと必死になっているテレビ局に対し、インターネットはその枠組みを破壊しようと動く。先日取材したテレビ局の幹部は、こんなふうに詠嘆していた。
「テレビの業界は、古くから積み上げてきて安定している構造を維持したいと思って頑張っている。なのにインターネット業界の人たちは、それをなし崩しに、なし崩しにつぶしにかかってくるんですよね」
ここでのギャップは、「なし崩しにつぶしにかかって」やろうと思っているわけではなくて、IT企業は、企業として当たり前の行為、無駄を省いた効率的な投資によって、最大限の効果をあげようとしているだけのような気がします。
規制によって競争が制限される業界では、企業の戦略として取れる手段が制限されます。その結果、少ない選択肢を組み合わせた「安定している構造」というものが成立、維持しやすいのかもしれません。一方で、通常のマーケットの競争にさらされている業界では、少しでも戦略の選択肢を増やすために、新しい技術、方法を積極的に取り入れようとします。
ブログという地動説にもとづいたメディアを通して見ると、こういった企業の姿勢の違いが明確に露出してきてしまうのでしょうか。佐々木俊尚さんの「ITジャーナル」では、他にも幾つかの抵抗勢力の理屈が、事例として紹介されています。
ただ、問題が何かわかった時点で、半分は解決しているという見方もありますし、逆にいうと、既存企業のウィークポイントが明らかになってきた、とう意味では大きなビジネスチャンスなのかもしれませんね。最終的には、ユーザーは「自分にとってのナンバーワンの指を掴む」わけでしょうから。
「録画ネット」事件は、オリンピック放映権の問題である(佐々木俊尚の「ITジャーナル」)
判決の是非はともかくとして、なぜテレビ局は録画ネットに対してこれほどまでに強硬な対応に出たのだろう。録画ネット側は社員わずか3人の超零細企業、加入者だって250人しかいなかった。かたやNHKと民放キー局5局は、日本のメディアの中核に位置する巨大な権力である。象の群れが襲いかかって、蟻を踏みつぶしたようなものではないか。
その疑問をNHK関係者にぶつけてみたところ、こんな答が返ってきた。
「オリンピックの放映権がからんでいるからですね。録画ネットは小さい存在かもしれないけれど、堤防の土手に空いた小さな水漏れ穴になるかもしれない。つまり放置しておくと、たいへんな事態を招きかねないと判断されたからです」
新聞社はダブルスタンダードがお好き?
「うちの会社はね、フリーライターみたいな権威のない一個人には正式回答は行わない、っていうスタンスなんだよ。いや佐々木さんのことをバカにしてるっていうわけじゃないんだけどね、そういう基本方針なの」
思わず私は、「ずいぶん変わった基本方針ですね」と嫌みを言ってしまったのであった。そもそも「夜討ち朝駆け」といわれる取材手法を駆使し、寝ている取材相手を叩き起こしてでもネタを取る新聞記者の会社が、「文書でしか回答しない」「個人の取材には対応しない」というのは、何ともダブルスタンダードに過ぎるのではないか。
話を少し戻そう。
先に書いた読売新聞への取材というのは、「見出し引用裁判」についてのコメントを求めるものだった。この裁判は、読売新聞が2002年12月、神戸のデジタルアライアンス社を相手取って起こした。同社はYahoo!がポータル上で提供しているニュースの見出しとリンクを、バナーの上に電光掲示板状に流すというサービスを提供しており、読売側は「見出しにも著作権があり、勝手に利用するのは著作権侵害である」と見出しの使用差し止めを求めたのである。
実は読売が小規模なベンチャー企業を相手に裁判を起こした背景には、Googleニュースへの恐怖があったらしい。Googleニュースというのはご存じのように、さまざまなニュースサイトの見出しとリンクを自動収集し、カテゴリ別に並べてひとつの大きなニュースサイトのように見せてしまうGoogleの新サービスである。当時は英語圏だけでこのGoogleニュースは提供されていた。「もしこんなものが流行してしまうと、新聞社のニュースサイトの価値がどんどん下がってしまう」――読売はどうもそう考えたらしく、何とかGoogleニュースの上陸を阻止しなければならないと考え、その牽制球として「見出しには著作権がある」という裁判を起こしたのだ。
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